経営学から学ぶ仕事を効率よくまわす、「ゴミ箱モデル」と「やり過ごし」とは 東京大学・経済学部・『経営学』

上司に言われたこと、すべて行っていますか?

新社会人の皆さんは会社に入って一カ月弱たったころですよね。職場で効率よく仕事をすることができなくて困ることがあると思います。そこで、今回はそんな皆さんに向けて経営学から「やり過ごし」という概念をご紹介しようと思います。この「やり過ごし」を行うことで仕事がより効率的にまわり、組織としてもうまく機能していくのです。まずは、やり過ごしという概念が出てくる「ゴミ箱モデル」について簡単に説明しようと思います。

ゴミ箱モデルとは

「ゴミ箱モデル」という理論を聞いたことがあるでしょうか。これは組織における意思決定に関するメカニズムを説明する理論の一つです。以下、簡単に説明します。

ゴミ箱モデルは、基本的には意思決定(何をするか決めること)の要素として「選択機会(話し合う場)」「会議の参加者」「解決策」「問題」の4つを指摘しています。集団における意思決定を行う場合、会議も回数を分けて実施すると状況も変わります、また時間と共に参加者の考え方も変わり、問題の捉え方も変わります。意思決定を行う場面は、まるでゴミ箱のように絶えず選択機会(会議)に色々なモノが出たり入ったりして、最終的に期限になったとき意思決定が行われる。集団における意思決定は、必然的に生み出されるものではなく、上記の4つの要素が偶然に結びついた結果でしかないという考え方です。

そこで、ゴミ箱モデルにおける意思決定には「問題解決」、「やり過ごし」、「見過ごし」の三種類の意思決定方法があります。

・「問題解決」は問題に対する解決策が提示されて問題が解消して終わることを言います。
・「やり過ごし」とは、問題を解決するのに必要なパワーが大きすぎるため、解決されないまま放っておくことでその問題自体がなくなってしまうことを言います。
・「見過ごし」は大きな問題が会議の壇上に上がってくる前にそのほかの小さな問題を片づけてその大きな問題が議会に投入されない前に終えてしまうことを言います。

実際に例を挙げて解説してみます。
大学の会議(選択機会)というのはそこで問題が議論され、解決されるものです。(問題解決)
しかし、教授の長老的ポジションの人が「教育の本質とは何か」などと大きな問題に言及すると、その問題について延々と話し続け、会議が長引きほかの問題も解決されないまま終わってしまうことが日々続いていました。そこで、ある先生が「もうほかの議題に行きませんか」と鶴の一声を上げることでほかの小さな問題を解決して、大きな問題は忘れられて会議はめでたく終わることになりました。(やり過ごし)
また、ある日は長老的ポジションの教授が来る前に小さな問題をすべて解決してあたかも大きな問題がないようにふるまって会議を終わらせることもありました。(見過ごし)

以上のようにやり過ごしや見過ごしを行わないと会議で何一つ議論が進まないまま、無意味に近い時間を過ごしてしまい組織としてうまく回らなくなってしまうのです。

「やり過ごす」ことによる効能

以上から、うまくやり過ごすことは組織運営において重要な行動であることが分かります。また、この「やり過ごし」は会議上に留まらず、実際の業務にも関わってきます。
実際の業務の中でどのような効能を持つのか簡単に紹介しようと思います。

オーバーロード状態におけるスクリーニング機能

難しい感じがしますが、要は慢性的に仕事量が多すぎてうまくまわっていない組織から、無駄な業務をカットしてうまく回せるようにする効能です。

バカ殿状況におけるフィルター機能

上司が的外れな指示をしてきて本当に必要な業務ができない状態を解消するべく、的外れな指示はやり過ごすことで組織をうまく回せるようにする効能です。

トレーニング機能/選別機能

実際に部下をトレーニングするために意味のない業務を割り振り、やり過ごさせることで仕事の選別力を鍛えるという上司も実際に存在します。

実際に「やり過ごす」ことのできる社員に最も高い評価を与える会社も存在します。
以上のようにやり過ごしには様々な効能があります。私たちも上司に言われたことをすべてこなしていては、本当に必要な業務ができなくなってしまう状態に陥ってしまう可能性があります。
ですので、自分の中で本当に必要だと判断する業務から優先度をつけてこなしていき、優先度の低い、またはする必要のない業務に関しては無視してしまうという「やり過ごし」をすることが重要になります。そうすれば、本当に必要な業務をこなしていくことができ、効率的に仕事をすることができるようになります。

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いかがでしたでしょうか。今回は実際に経営学でも用いられているゴミ箱モデルとやり過ごしを紹介しました。日々の業務で「やり過ごす」ことを覚えれば今よりも何倍も効率よく仕事をすることができるようになります。実際に筆者のバイト先でも無意味な指示をしてくる上司がいて、その指示をやり過ごすことでうまく回そうと意識して働いています。ぜひ、皆さんも「やり過ごし」、会社の中で「できる」社会人になっていってください!

参考文献

『経営学で考える』 高橋信夫著 有斐閣出版
http://www.yuhikaku.co.jp/books/detail/9784641164611